導入事例
住友商事 鉄鋼原料・炭素SBU:一部の人ではなく、全員がAIを使う組織へ
商社の業務に精通したFDE(フォワードデプロイドエンジニア)2名が、1ヶ月・週2日の常駐で伴走。
約50件の相談に応えながら、その場で動くエージェントやskillsを一緒につくり、
現場が自分たちで作り続けられる内製力を残した。
「一部の人がAIを使いこなしても、成果は限られる。全員が使えるようにならないと、最終成果物は変わらない」
そう語るのは、住友商事 鉄鋼原料・炭素SBUで生成AI活用のタスクフォースを担う大門さん。 同SBUは2026年5月、約70名の全員が生成AIを日常業務で使える状態を目指すタスクフォースを立ち上げた。 ChatGPTとClaudeを全員に配布し、各チームにAI担当を置き、週1回の共有会を回す。 そのうえで7月、ブーストコンサルティングが週2日の常駐型支援で1ヶ月伴走した。 研修から1週間で約30個だったskillsは、いま100個になった。 なぜ「全員」だったのか、外部を入れて何が変わったのか。タスクフォースの皆さんに伺った。
会社・組織紹介
住友商事株式会社
鉄鋼原料・炭素SBU
鉄鋼原料および炭素関連製品のトレードと事業投資を担う組織。約70名。 2026年5月、SBU全員の生成AI活用を目指すタスクフォースを発足。
お話を伺った方
住友商事 鉄鋼原料・炭素SBU
デジタル・AI戦略タスクフォース(TF)
大門さん – TFリーダー
荒木さん
井上さん
- 目的
- 生成AIの民主化。SBU約70名の全員が日常業務で使える状態にする。
- 現場から集まった要望のうち、今のIT環境で実現できるものを見極め、1ヶ月で実際に動くものをつくる。
- 作ってもらうのではなく、自分たちで作れる状態(自走)を残す。
- 課題
- 一部の人が使いこなしても、組織としての成果は限られる。
- 全員にツールを配り、各チームにAI担当を置いて共有会を回したが、「この業務はAIで解けるのか、今の環境でどう解くのか」を切り分けて答えられる相手が社内にいなかった。
- skillsを作る途中で出てくる疑問を、その場で気軽に相談できる環境がなかった。
- 効果
- 現場が自分たちでskillsを作り、直し、共有する内製力がついた。skillsは研修後1週間で約30個、現在100個。検索と重複検知を行う「Skills Hub」も内製で構築・運用。
- 生成AIの利用が日常化し、どのデスクトップにも生成AIの画面がある状態に。資料作成時間が減り、資料の見やすさも向上。
- 求められる仕事が「情報を持ってくる」から「そこから何が言えるか」へ変わり始めた。
- できること・できないことの線が明確になり、地に足のついた活用へ。
削減時間などの定量効果は未計測。数値は取材時点の先方発言に基づく。
なぜ「全員」だったのか
ー タスクフォースは2026年5月に立ち上がったと伺いました。きっかけは何だったのでしょうか。
大門さん実はその前に、前身になる取り組みがありました。年末から3ヶ月ほど、「AIを使って新規事業をつくれないか」を、SBU長と一緒に試したんです。そこで体感したのは、AIは「自分が100人いればできることはできる、それでも出来ないものは出来ない」ということでした。情報を集める、整理する、形にする。人手さえあればできることは、驚くほど速くなる。逆に言えば、AIは使う人の頭の中にあるものを増幅する道具で、ゼロからイチを代わりに生み出してくれるわけではない。それがはっきり分かりました。
ー その体感が、なぜ「全員で使う」につながるのでしょう。
大門さんAIが増幅するのは、使う人の知見だからです。商社の場合、ビジネスの種になる知見は、特定の誰かではなく、現場の一人ひとりの中にあります。だとすれば、限られた人がどれだけAIを使いこなしても、増幅されるのはその人の知見だけで、組織としての成果は限られる。全員が使えるようになって初めて、組織の成果物全体が底上げされる。そう考えました。だから「一部の人が高度に使う」ではなく、「SBU全体のAIスキルを底上げする」タスクフォースになったんです。
もうひとつ、ツールによってアウトプットの質が大きく変わることも体感していました。当時はClaudeの性能にSBU長と共に驚き、ツールが日進月歩する中、複数のAIを使うことの重要性も感じました。
全員が使える状態の設計
ー 具体的にはどう進めたのですか。
大門さんまず「生成AIの民主化」をゴールに置いて、ChatGPTとClaudeを組織の全員に配りました。そのうえで、生成AIとは何か、上手なプロンプトの型、など基礎の基礎の研修を、外部講師を招いて全員に開きました。
ただ、そこからどう広げるかが本題です。チーム長からの指示で広げるより、各組織に必ずいる「生き生きと使っている人」を起点にしたほうが広がる。隣の席の人がすごくAIを使いこなしている、という状況を各チームにつくる。そう考えて、各チームにAI担当を置きました。タスクフォース5名に加えて、各チームから最低1人、全体で10名余りです。
ー 人選の基準はありましたか。
大門さんやらされ感のある人ではなく、「これは便利だ、誰かに教えたい」と自然に思っている人。実際、そういう人が手を挙げてくれました。
ー 日本の大企業で、ひとつの部門がここまで踏み込む例はあまり聞きません。何が違ったのでしょう。
大門さんSBU長の強いリーダーシップです。誰かに言われてではなく、SBU長自身が「民主化すべきだ」と体感していた。Claudeのすごさも一緒に体験していたので、組織全体でやろうという判断が早かったのだと思います。
なぜ外部を入れたのか
ー 社内で回せる体制があるなかで、外部を入れた背景を教えてください。
大門さんAI担当が週1回集まって、こんな使い方がある、こういう悩みをどう解決したか、というベストプラクティスを共有する場をつくったんです。それで1〜2ヶ月走ってみると、組織の中だけでは解決できない壁が、どんどん出てきました。
荒木さんたとえば、面談レポートの情報をまとめて、議論の経緯や論点を整理したいという相談があったとき、私たちが言えるのは「とりあえずAIに投げてみたら答えが出るよ」程度なんです。使い始めて間もないので、それ以上の答えを持っていない。課題を細かく分析して、デジタルで解決できる部分とそうでない部分を切り分けて教えてくれる人が、SBU内にはいなかった。
コンサルとしての専門性があって、デジタルやITの知見があって、しかも商社の業態に詳しい。この3つが揃った人はなかなかいません。
大門さんちょうどそのタイミングで、ブーストコンサルティングから「今の環境でどこまでできるか、足元の悩みに答えを出しながらクイックウィンをつくる」という提案をもらった。直面していた課題にぴたりと合っていて、それなら、と決めました。
ー 期待していたことは何でしたか。
大門さんいちばん大きかったのは、「作ってもらう」ではなく「自分たちで作れる状態を残す」と、ずっと言い続けてくれたことです。自走を目指すという姿勢を、最初から大事にしてくれた。外部に発注したというより、仲間として入ってもらったイメージに近いですね。
荒木さんあとは、skillsを作っていて「これ、どういうことだろう」と思ったときに、気軽に相談できる相手がほしかった。週2日、同じフロアにいてもらえるのは、その意味でありがたかったです。
「作ってもらう」ではなく「作れる状態を残す」と、
ずっと言い続けてくれた。
外部に発注したというより、仲間として入ってもらったイメージです。
常駐の1ヶ月で起きたこと
ー 2026年7月、週2日の常駐が始まりました。印象に残っている場面はありますか。
荒木さん常駐されている間、ほとんど空き時間がなかったことです。常に誰かと打ち合わせをしていた。それも特定の人ではなく、いろいろな人が相談に行っていました。
大門さん私たちが何かを仕向けたわけではないんです。みんなそれぞれ悩みを持っていて、誰かに相談したいという思いがあった。
井上さんせっかく来てくれているから相談してみよう、と自然に動いていました。
また、私たちがどれだけ無理なことを言っても、その場で「できません」とは言わない。必ず一度持ち帰って検討してくれる。安心感がありましたし、この人たちなら任せられると思いました。
ー タスクフォース側で、現場を巻き込む工夫はありましたか。
荒木さん工夫というほどではないですが、進捗をこまめに共有しました。私たちからだけでなく、幹部会議、チーム会と、いろいろなレイヤーで「今こんな感じです」と、草の根的に。内部で閉じるのではなく「一緒にやろう」という雰囲気をつくることは意識しました。
大門さんガラス張りの会議室を使ったのも良かったです。自分の席から、ブーストコンサルティングの方が今いるな、いま空いてるな、というのが見える。カレンダーに予定を入れていなくても、空いていそうだからと立ち寄る人がいました。相談のハードルは、そういうところでも下がるんだと思います。
skillsが1ヶ月で100を超えた理由
ー 今回はプロンプトの工夫にとどまらず、Claudeのskills(業務の手順や判断基準をAIに覚えさせ、繰り返し使える形にしたもの)まで踏み込んで内製していきました。研修の翌週には約30個、いまは100個になったと伺いました。
井上さんskills研修を開いてもらったのが大きいです。最初はみんな、skillsって何だろう、難しそうだな、という感覚だったと思います。研修で実際に手を動かしてみたら、「これなら自分もできるかも」「意外と難しくない」となって、そこから一気に増えました。
大門さん作り方自体はYouTubeを5分見れば分かるんです。でも、自分の知っている人が、自分にも想像がつく業務のためにskillsを作った、というのが効いた。「こんな使い方があるんだ」が自分事になる。30個から100個に増えたのは、そういう連鎖だと思います。
ー 作ったskillsは、どう管理していますか。
井上さん全員が見られる場所に置く運用にしています。さらに最近、「Skills Hub」というダッシュボードを内製しました。やりたい業務を打ち込むと、それに合うskillsが出てくる。
大門さん似たskillsが増えてくるので、重複もAIに検知させて、事務局でどちらかに寄せています。
ー 途中で運用を変えたskillsもあるそうですね。
大門さん資料のトンマナを揃えるパワーポイントのテンプレートskillsです。最初は組織全体のskillsに入れて、資料を作るたびに「テンプレートを使いますか」と聞く設計にしていました。でも働き方は千差万別で、毎回使う人にはその確認自体が邪魔だし、使わない人には不要なんです。個別の好みに合わせられるのがskillsの良さなので、使いたい人が自分でオンにする形に変えました。Skills Hubで一覧が見やすくなったので、自分で選んで使うほうが合っています。いまは、最初に配ったテンプレートを土台に、それぞれが自分の使い方に合わせて進化させています。
何が変わったか
ー 1ヶ月を経て、組織の変化を感じるところはありますか。
荒木さん生成AIを使うことが当たり前になりました。どなたのデスクトップを見ても、生成AIの画面が開いている。そのくらいの変化です。
井上さん目に見えるところでは、プレゼン資料が見やすくなりました。HTMLで作るものも、従来どおりのパワーポイントも、すっきりした仕上がりになっている。資料作成にかける時間も大幅に減ったと思います。
それから、評価される仕事の中身が変わり始めています。以前は、分からないことを調べて情報を持ってくるだけで、ある程度評価されていた。いまはそこが簡単になったので、「この情報から何が言えるのか」がより求められる雰囲気になっています。
ー 入ってもらって良かった点を、他に挙げるとすれば。
大門さんできることが増えたのはもちろんですが、それ以上に「できないこと」がはっきりしたのが良かった。知らないからできないと思っていた壁が、AIエンジニアに入ってもらうことで、「これは自社のセキュリティの制約」「これは今のAIの限界」と切り分けられた。おかげで、地に足のついた使い方になってきています。ここまではできる、これはできないものとして付き合う。AIは魔法の杖じゃないよ、ということを、いまはみんなが分かっている。だからこそ、やりたいことがあれば、できる範囲の中でどう工夫するかを、みんなで考えられるようになりました。
知らないからできないと思っていた壁が、
「セキュリティの制約」と「今のAIの限界」に切り分けられた。
AIは魔法の杖じゃないよ、ということを、いまはみんなが分かっている。
これから目指す姿
ー タスクフォースとして、これからどこへ向かいますか。
荒木さん今回の取り組みはSBUの中で閉じていましたが、隣のSBU、資源グループという単位で、生成AIを活用しようという雰囲気ができてきています。この熱量を全社に広げたい。効率化だけでなく、事業価値の向上にまで活用できる体制をつくれればと思っています。
井上さん私は、組織間の情報共有をもっと良くしたい。いまはチーム間の情報共有が、「この情報はあのチームにも有用だろう」と気づいた個人が手で転送する形に頼っています。商社は、いろいろな業界の上流から下流までに関わっていて、その情報こそが資産です。組織を横断して自動的に共有される仕組みができれば、商社の力をもっと発揮できる。AIを使って、そこに取り組んでいきたいです。
大門さんタスクフォースにできることは、AIで稼ぐことそのものではなく、上手な使い方を共有して、組織の知にしていくサポートだと思っています。Skills Hubのように、「こんなことをやっている人がいる」を組織に見える形にしていく。それを引き続きやっていきます。
ー 最後に、同じようにAI活用に取り組もうとしている方へ、メッセージをお願いします。
大門さんタスクフォースを立ち上げるとき、ROIをどう出すか、どう管理するか、AI活用は目的ではなく手段だよね、と難しいことを考えていました。でも振り返ると、いちばんの原動力は、単純に「Claudeを使ってみたら、こんなに便利だった」という感動です。それが伝播すれば、自然とみんな使う。みんなが使えば、稼ぐことを考えている人もAIを使う。だから稼ぐことにつながる。だから、とにかく走ってみた。最初からROIを難しく考えすぎると、前に進めなくなるのかなと思います。まずは皆が使うことを目指してハードルを下げる。それでいいのかなと。
全員が使える状態を、1ヶ月からつくる。
作ってもらうのではなく、自分たちで作れる状態を残す常駐型支援について、ご説明します。
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